東京高等裁判所 平成10年(行ケ)62号 判決 1999年11月09日
原告
テレフレックスインコーポレイテッド
代表者
【A】
訴訟代理人弁護士
熊倉禎男
同弁理士
【B】
同弁護士
田中伸一郎
同弁理士
【C】
同弁護士
折田忠仁
同
飯田圭
被告
特許庁長官【D】
指定代理人
【E】
同
【F】
同
【G】
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成8年審判第14096号事件について平成9年9月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文1、2の項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1989年2月2日に米国においてした出願に基づく優先権を主張して、発明の名称を「被覆編組ホース組立体及びその製造方法」とする発明について平成元年9月8日に特許出願(平成1年特許願第234513号)をしたところ、平成8年1月22日に拒絶査定を受けたので、同年8月19日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成8年審判第14096号事件として審理した結果、平成9年9月3日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同年11月5日に原告に送達した。なお、出訴期間として90日が付加された。
2 特許請求の範囲1の項(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)
管状部材11と、管状部材11の端を流体を導く取付具に連結するためのカップリング20とを有し、前記管状部材11は押し出されたフルオロカーボンポリマーの有機ポリマー内側ライナー12と、内側ライナーの外部に編組層とを有するホース組立体において、ホース組立体を強化するために、編組層13全体にわたって、半径方向内方に分散されたフルオロカーボンポリマーからなる有機ポリマー材料の被覆を有することを特徴とするホース組立体。(別紙図面1参照)
3 審決の理由
別紙審決書の理由の写しのとおり、本願発明は、特開昭51-58710号公報(以下「引用例」という。別紙図面2参照。)記載の発明と同一であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない旨認定判断した。
4 本願明細書の記載
本願明細書(本願発明に係る願書に添付された明細書をいう。)には、本願発明を含む本願に係る発明について次の記載がある。
(1) 「本発明はホース構造に関する。特に、本発明は車両の燃料を運ぶようになったホース組立体に関する。」(本願公告公報(甲第2号証)4欄15行ないし17行)
「テフロンホースは燃料を運ぶのに必要な物理的な性質を持っている。これらのタイプのホースの主要な問題点は、単独で用いられるとき、即ちテフロンライナー又は導管だけで用いられるときには、取りつけ中、ホースが曲げられる傾向があり、又ホースが捩じれるということである。この捩れまたは変形は永久に残り、ホースを通る流体の流れに一定の抵抗を与える」(同4欄29行ないし36行)
(2) 「ホース組立体は編組層全体にわたって分散されたフルオロカーボンポリマーからなる有機ポリマー材料の被覆を有する。編組層全体にわたって分散された被覆は編組層の繊維を覆う薄い被覆である。この被覆は必要な強度をもたらすから、内側管状部材即ちライナーは曲げたとき捩れたり変形したりすることがない。編組層の繊維全体にわたって分散されたフルオロカーボンポリマーからなる有機ポリマー材料の被覆を使用することによって、ホースの重さ、寸法及びコストを実質的に減ずる。」(同6欄12行ないし22行)
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由Ⅰは認める。同Ⅱの引用例の技術内容の認定(3頁2行ないし14行)は、引用例記載の発明について、波形の内側コア部材2と、内側コア部材2の端を流体を導く取付具に連結するための接続継手6を有することを認め、内側コア部材2が内側PTFE壁部分と補強輪郭編組体とを有すること及び補強輪郭編組体が、全体にわたって半径方向内方に分散されたポリテトラフルオロエチレンからなる有機ポリマーの被覆を有することを争う。同Ⅱの本願発明と引用例記載の発明の比較及び相違点についての判断(3頁16行ないし4頁末行)のうち、引用例記載の発明の「内側コア部材2」、「内側PTFE壁部分」及び「補強輪郭編組体」が本願発明の「管状部材11」、「内側ライナー12」及び「編組層13」に相当すること、本願発明と引用例記載の発明とは、審決認定の相違点以外に構成上の差異は認められないこと、熱軟化性の合成樹脂によって構成された波形の管を押し出し成形によって形成することが慣用技術であること並びに引用例記載の発明において、波形の「内側PTFE壁部分」を慣用技術である押し出し成形によって形成することは、当業者が適宜できることであることを争い、その余は認める。同Ⅲは争う。
審決は、一致点の認定を誤り、また、及び相違点についての判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は、引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」、「補強輪郭編組体」及び「内側コア部材2」は、それぞれ本願発明の「内側ライナー12」、「編組層13」及び「管状部材11」に相当すると認定しているが、いずれも誤りである。
(1) 本願発明の「内側ライナー12」と引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」との対応関係
イ 審決は、引用例記載の発明につき「内側PTFE壁部分」という用語を用いているが、引用例自体には、そのような用語は一切用いられていない。したがって、審決が引用例記載の発明の「内側コア部材2」のいかなる部分をもって本願発明の「内側ライナー12」に相当すると認定しているのか、認識できない。しかし、審決のいう「内側PTFE壁部分」がいかなる部分であるにせよ、引用例記載の発明においては、「内側コア部材2」は全体が単一のPTFE材で構成されており、その内側には明確に区切られた部分は存在しない。
これに対して、本願発明の「内側ライナー12」は、「編組層」との関係において、形成方法も異なり、しかも、「編組層」の被覆材料であるフルオロカーボンポリマーとは、必ずしも同じ材料ではなく、明確に認識される別個の層を形成するものである。
ロ 引用例記載の発明の「内側コア部材2」のコア部の内壁は回旋状で、しかも、内壁表面は滑らかには形成されていない。
これに対し、本願発明の「内側ライナー12」は、単一径の滑らかな内壁を有している。すなわち、本願発明の「内側ライナー12」は、特許請求の範囲に明示されているとおり「押し出されたもの」であり、押し出し成形、すなわち、可塑性の原料が加圧によりダイスから押し出され、それを冷却するという成形方法で形成されるものであるから、当然に単一径の表面が滑らかな形状となり、それ以外の形状にはなり得ないのである。
ハ 以上のとおり、引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」は、本願発明の「内側ライナー12」に相当しない。
(2) 本願発明の「編組層13」と引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」との対応関係
イ 本願発明の「編組層13」は、全体にわたって半径方向内方に分散されたフルオロカーボンからなる有機ポリマーで被覆され、「内側ライナー12」とは別の層を構成するものである。これに対し、引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」は、被覆ではなく単一のPTFE材の中に埋装され、したがって単一の層である「内側コア部2」の一部をなしている。
ロ また、引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」は回旋状の形状を有する「内側コア部2」の外表に沿って埋装されており、やはり回旋状の形状を有している。これに対し、本願発明の「編組層13」は、前記「内側ライナー12」の構成から明らかなとおり、単一径のものであるから、両者は形状が相違する。
ハ 以上のとおり、引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」は、本願発明の「編組層13」に相当しない。
(3) 本願発明の「管状部材11」と引用例記載の発明の「内側コア部材2」との対応関係
本願発明の「管状部材11」の構成要素である「編組層13」と引用例記載の発明の「内側コア部材2」の構成要素である「補強輪郭編組体」とが異なるものであることは、前述のとおりである。また、引用例記載の発明の「内側コア部材2」は、単一のPTFE材から成っていて、そこには、本願発明の「内側ライナー12」に相当するものがない。そして、両者の形状が相違することは前述のとおりである。
このようなとき、引用例記載の発明の「内側コア部材2」を、本願発明の「管状部材11」に相当するとすることはできない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
審決は、本願発明の「内側ライナー12」が押し出しによって形成されているのに対し、引用例記載の発明のコルゲート管(波形の「内側PTFE壁部分」)は押し出しによって形成されてはいない点を、相違点として認めておきながら、コルゲート管を押し出し成形によって形成することは慣用技術であるとの誤った認識に基づいて、本願発明における「内側ライナー12」の形状は波形のものも含むと誤認し、その結果、引用例記載の発明において、コルゲート管(波形の「内側PTFE壁部分」)を押し出し成形によって形成して、本願発明のものと同じにすることは、当業者が適宜できることであるとの誤った判断に至った。
(1) 前記1(1)で述べたとおり、本願発明の「内側ライナー12」は、特許請求の範囲にあるとおり、「押し出された」もの、すなわち、押し出し成形で形成されるものであり、押し出し成形によっては、単一径の表面が滑らかな形状のものしか形成できないから、当然に単一径の表面が滑らかな形状である。
(2) 被告は、押し出し成形によってもコルゲート管を形成することはできるというが、押し出し工程のみによってコルゲート管を形成することは、不可能である。被告の挙げる特公昭57-10819号公報(以下「甲第6号証刊行物」という。)、特開昭60-132726号公報(以下「甲第7号証刊行物」という。)及び【H】ほか編「改訂新版プラスチックハンドブック」(昭和44年6月20日株式会社朝倉書店発行、以下「乙第1号証刊行物」という。)記載の技術は、いずれも、押し出し工程に更に特別な工程を加えるというものであって、単なる押し出し工程のみによるものではない。そして、本願発明の特許請求の範囲には、単に「押し出された」としか記載されていないのであるから、上記特別な工程を加えるものがこれに含まれるということはあり得ない。
しかも、仮に、このような特別な工程を、引用例記載の発明で用いられるPTFEについて、押し出し後に加えようとしたとしても、その材質上の問題から、クラックが生じるなどするため、実質的な使用に耐えられる回旋状等のライナーを形成することはできない。
(3) そもそも、本願発明のホース組立体は、燃料輸送用のホースに係るものである。このような用法においては、ホースの流体の流れに抵抗を与えるということは避けなければならない。そのため、燃料を運ぶために従来から用いられていたテフロンホースは、いずれも均一径の表面の滑らかなものであり、本願発明の「内側ライナー12」が単一径の表面の滑らかな内壁を有していることは、この点からも裏付けられるところである。
(4) 引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」は審決も認めるとおり波形であるから、これが本願発明に含まれないことは、むしろ自明というべきである。
(5) にもかかわらず、審決は、コルゲート管を押し出し成形によって形成することは慣用技術であるとの誤った認識を抱いたため、本願発明の特許請求の範囲の上記「押し出された」の記載の意味を誤認し、さらに、引用例記載の発明に変更を加えて本願発明とすることは当業者が適宜なし得るところとする誤りを犯すに至ったものである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 本願発明の「内側ライナー12」と引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」の対応関係
イ 引用例記載の発明の「内側コア部材2」は、「内側PTFE壁部分」とその外側のPTFEが埋設された「補強輪郭編組体18」とから形成されており、「内側PTFE壁部分」は、PTFEすなわちポリテトラフルオロエチレンで構成されているのに対し、「補強輪郭編組体18」は、金属素線又は適度な強度のプラスチック線、あるいはガラスファイバーのストランド又は組紐によって構成されている。このことは引用例に明示されているところである。
上記「補強輪郭編組体」と「内側PTFE壁部分」とは、このようにその材質が相違しているのであるから、引用例記載の発明の「内側コア部材2」が、上記2つの構成要素から成っていることは明らかなことである。
本願発明の特許請求の範囲には、「編組層13」の形成方法についても、「内側ライナー12」と「編組層13」の材料の異同についても何ら限定されていないから、両者の形成方法や材料が異なるということもない。
ロ 本願発明の特許請求の範囲には、「押し出されたフルオロカーボンポリマーの有機ポリマー内側ライナー12」と記載されているのみであり、「内側ライナー12」は「単一径の滑らかな内壁を有している」ものに限定されているわけではない。この点についての原告の主張は、結局のところ、特許請求の範囲の記載に基づかないものに帰する。
(2) 本願発明の「編組層13」と引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」との対応関係
イ 引用例記載の発明では、「補強輪郭編組体」には、PTFEの水中分散質が液浸され、その後、焼結されてPTFEが一体的に埋設されるのであるから、引用例には、「補強輪郭編組体18全体にわたって、半径方向内方に分散されたポリテトラフルオロエチレンから成る有機ポリマー材料の被覆を有する」点が記載されている。
本願発明の実施例では、「編組層」は、まず、内側ライナー12の外部にガラス繊維材料を編組し、次に、有機ポリマー材料を編組層の外周から内側ライナーに向かって半径方向内方に分散して編組層13全体を被覆し、次いで、溶液を乾燥により取り除いて有機ポリマー材料を残し、その後、ホース組立体を焼結して有機ポリマー被覆14を強化させて形成されている。一方、引用例では、「補強輪郭編組体」は、内側PTFE壁部分の表面に素線編組体を編み付け、次に、素線編組体18にPTFEの水中分散液を液浸させ、次いで、焼結、硬化させて作られるのであるから、引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」の形成方法は、本願発明の「編組層」の形成方法と何ら変わるところがない。したがって、本願発明の「内側ライナー」と「編組層」とが明確に認識できる別個の層であれば、引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」と「補強輪郭編組体」も、同様に明確に認識できる別個の層を形成しているということができる。
ロ 前記(1)ロで述べたとおり、本願発明の「内側ライナー12」は単一径のものに限定されているわけではないから、「編組層13」も単一径のものには限定されない。
(3) 本願発明の「管状部材11」と引用例記載の発明の「内側コア部材2」との対応関係
引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」及び「補強輪郭編組体」が、それぞれ、本願発明の「内側ライナー12」及び「編組層13」に相当することは既に述べたとおりである。引用例記載の発明の「内側コア部材2」は、本願発明の「管状部材11」に相当しないとする原告の主張は、上記二つの対応関係が認められないことを根拠とするものであるから、成り立ち得ない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 押し出し成形機から「押し出された」熱軟化性の合成樹脂の管をコルゲート管に形成することは、甲第6、第7号証及び乙第1号証刊行物に記載されているとおり慣用技術であり、押し出し時の管に波形の形状を付与して波形管を成形することは押し出し成形の概念に含まれる。そして、PTFEに可塑性を持たせて押し出し成形することは周知であるから、押し出し時にクラックが生じるほどの大きく深い谷の波形に形成しなければ、押し出し成形によって波形管を形成することができることは明らかである。
引用例には、「中間段階として形成される内側PTFE壁部分の回旋状表面に対して素線編組体18によってPTFE材の回旋状管の全長にわたって編み付けられる。」(4頁右下欄13行ないし5頁左上欄1行)、「2段階あるいは単一段階の焼結と硬化のいずれにしても、心棒にテープ30を巻回することにおいて、この1枚又はそれ以上のテープは“焼結”PTFE材でもよい。」(7頁左上欄12行ないし右上欄1行)との記載があり、この中間段階として形成される内側PTFE壁部を上記慣用技術を利用して形成することは、当業者にとって単なる慣用技術の転換にすぎない。
(2) 本願発明は、ホースの内壁が滑らかである燃料用のホース組立体に限定されているわけではないから、コルゲート管も、本願発明に含まれる。コルゲート管は本願発明に含まれないとする原告主張は、結局、本願明細書の記載に基づかないものに帰する。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 引用例の記載
甲第4号証(引用例)によれば、引用例には、「望ましい形態において、本発明は、回旋状管の外側壁編組層を形成するように編むことにより実現される。壁は直接その上に編まれPTFE材から形成された管状部材の外側回旋状壁と接触してきちんと包囲され、金属素線又は適度な強度のプラスチック線、あるいはガラスファイバーのストランド又は組紐によって成る。そして、該編組層にはPTFEの水中分散質のような適当な材料が、浸漬等により付着される。ついでアセンブリを形成するように熱処理する。後述するような適当なPTFEの最終焼結と硬化によって、ホースアセンブリの内側コア部材として使用するために外側層とPTFEは単一の壁形態に一体化される。」(3頁左上欄14行ないし右上欄11行)、「ライナ又は内側コア2は、後述するような管の製造における、中間段階として形成される内側PTFE壁部分の回旋状表面に対して素線編組体18によってPTFE材の回旋状管の全長にわたって編み付けられる。・・・輪郭編組体は、PTFEに壁の全長にわたって金属の強度を加え、管を強化するための既知の方式よりも多少強く補強し、これまでの欠陥を克服する。PTFE壁における補強輪郭編組体は18で示される。第1図の18で示されるストランドは、一体的に編成されると“輪郭編組体”を形成することがわかる。・・・この素線は金属性あるいはガラスファイバを含む合成材料からなる。」(4頁右下欄12行ないし5頁左上欄12行)、「第1図の内側コア2の壁構造の横断面には2’において素線編組補強体が、完全に埋装され、PTFE壁材に編込まれ、その編組体が外側部分に沿って示されている(第4図)。素線編組体2’の網状体は全壁の厚さのごく一部分を占めることが第4図に示されている。」(5頁左下欄4行ないし9行)、「PTFEの水中分散質は、第3図に示されるように適用される。これは吹付け、直接液浸又ははけ塗りのような既知の方法によってなされる。PTFE分散質の中に編組を完全に浸せば十分な材料が付着する。編組体の液浸に続いて、アセンブリは十分な焼結と硬化工程のために適当な硬化温度下の炉内に置かれる。・・・その後、PTFEは急冷または、冷却され、その結果、一体的部分として埋装された素線編組体を結合した硬化単一壁構造となる。」(6頁左下欄2行ないし末行)との記載があることが認められる。
(2) 本願発明の「内側ライナー12」、「編組層13」と引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」、「補強輪郭編組体」とのぞれぞれの対応関係
イ 上記記載によれば、引用例記載の発明の「内側コア部材2」は、PTFEから形成された「内側PTFE壁部分」と、その外側の金属素線又は適度な強度のプラスチック線、あるいはガラスファイバーのストランド又は組紐によって形成される「補強輪郭編組体」とから構成されることが認められる。そうすると、引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」、「補強輪郭編組体」は、それぞれ本願発明の「内側ライナー12」、「編組層13」に相当するというべきである。
ロ 原告は、本願発明の「内側ライナー12」は、編組層とは形成方法も異なり、被覆材料たるフルオロカーボンポリマーとは、必ずしも同じ材料ではない旨主張する。しかし、本願発明の特許請求の範囲には、編組層の形成方法を限定する記載も、また、内側ライナーと編組層の材料が同じ材料であってはならない旨限定する記載もないから、本願発明においては、上記のような限定はされていないものと解すべきである。原告の主張は、採用することができない。
また、原告は、本願発明の「内側ライナー12」が「押し出された」ものであることを根拠に、それは、単一径の滑らかな内壁を有しているから、この点で引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」とは相違する旨主張する。しかし、審決は、「内側ライナー12」が「押し出された」ものであることを相違点として認定したうえ、他の点を一致点とし、認定した相違点の有する意味を判断しているのであるから、審決にはこの点に関する一致点の認定に誤りはなく、原告の主張は、失当である。
ハ 原告は、引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」には被覆がない旨主張する。しかし、前記(1)の認定事実によれば、引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」には、PTFEの水中分散質の中に完全に浸され、次いで焼結されてPTFEが一体的に埋設されるものも含まれることが認められるから、引用例記載の発明は、本願発明と同じ「ホース組立体を強化するために、補強輪郭編組体18全体にわたって、半径方向内方に分散されたポリテトラフルオロエチレンからなる有機ポリマー材料の被覆を有する」ものも含むというべきである。
また、原告は、引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」は、単一のPTFE材の中に埋装され、したがって単一の層である「内側コア部2」の一部をなしているから、本願発明の「編組層13」とは異なる旨主張する。しかし、引用例記載の発明の「内側コア部2」が、単一の層ではなく、材質の異なる「内側PTFE壁部分」と「補強輪郭編組体」とから構成されていることは、前認定のとおりである。原告の主張が、引用例記載の発明は、「内側PTFE壁部分」と被覆の材質とが同じPTFE材であり、両者の境界部分において焼結により一体化していることをもって、本願発明とは異なるとするものであるとしても、本願発明の特許請求の範囲には、「内側ライナー12」と被覆の材質が同一であるものが排除される旨の記載も、また、両者が境界部分において一体化しているものが排除される旨の記載もないうえ、本願明細書の他の部分を見てもこれらを排除することを示すものは見出せないから、本願発明においては、上記のような限定はされていないものと解すべきである。いずれにせよ、原告の主張は、採用することができない。
ニ 原告は、本願発明の「内側ライナー12」が「押し出された」ものであることを根拠に、それは単一径のものであるとし、これを前提として、本願発明の「編組層13」と引用例記載の発明の「補強輪郭編組体」とは形状が相違する旨主張する。しかし、「内側ライナー12」が「押し出された」ものであることについて、審決に相違点の看過がなく、審決の一致点の認定は、これを相違点としたうえでのものであることは、前記のとおりであるから、原告の主張は、失当である。
(3) 本願発明の「管状部材11」と引用例記載の発明の「内側コア部材2」との対応関係
以上のとおり、本願発明の「内側ライナー12」及び「編組層13」は、それぞれ、引用例記載の発明の「内側PTFE壁部分」及び「補強輪郭編組体」に相当するとした審決の認定に誤りはない。引用例記載の発明の「内側コア部材2」は、本願発明の「管状部材11」に相当しないとする原告の主張は、この誤りを前提とするものであり、失当なことが明らかである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 乙第1号証によれば、乙第1号証刊行物には、「3.2 熱可塑性樹脂の成形加工法」中の「3.2.1 押出成形」の項において、「k.パイプの押出」(729頁下から3行)、「図3.2.41はコルゲートパイプの製造装置を示す。・・・二重管ランド部分より押出された円筒状の溶融体は空気孔より噴出する圧縮空気によってふくらまされ、外部を循環するキャタピラによって送られてくる金型の波形部分に圧着されることによって、ひだつき管が連続的に成形される。」(730頁7行ないし12行)との記述と共に図3.2.41としてコルゲートパイプの製造法が記載されていることが認められ、上記記載によれば、熱軟化性の合成樹脂によって構成された波形の管、すなわち、コルゲート管を上記意味で押し出し成形によって形成することは、慣用技術であるものと認められる。そうすると、引用例記載の発明において、波形の「内側PTFE壁部分」を慣用技術である上記意味での押し出し成形によって成形することは、当業者が適宜なし得るものというべきである。
(2) 原告は、乙第1号証刊行物記載の技術は、押し出し工程に他の特別の工程を加えるものであるとして、本願発明は上記のような特別の工程を加えるものは含まれない旨主張する。
しかし、本願発明の特許請求の範囲には、「押し出された」と記載されているのみであって、他の工程が付加されることを一切排除していることを明示するものはなく、本願明細書の発明の詳細な説明を見ても、実施例についての記載中に「ライナー12は好ましくは押し出され・・・」(甲第2号証6欄39行、40行)との文言はあるものの、他に上記「押し出された」の意味について述べたものは見出せない。また、本願発明の要点である「ホース組立体を強化するために、編組層13全体にわたって、半径方向内方に分散されたフルオロカーボンポリマーからなる有機ポリマー材料の被覆を有する」ものとするとの点に着目しても、上記「押し出された」を他の工程の付加されないものに限ることに連なる要素は何もない。このようなとき、「押し出し成形」の用語につき前認定の用法の存在する以上、本願発明の「押し出された」を他の工程が付加されることを一切排除するものと解することは、少なくとも特許性を認めるか否かの判断においては相当でないというべきであるから、本願発明の「内側ライナー12」については、「押し出された」ことに反しない限り、押し出されたものに対して慣用される工程を付加することは排除されていないものと認めるべきである。
そして、前記(1)認定の乙第1号証刊行物記載の方法が、押し出されたものに対して慣用される工程を付加したものにすぎないことは前述のとおりであるから、これによるものは、本願発明の「押し出された」ものに含まれるものというべきである。
これに関し、原告は、押し出し後にコルゲート管を製造しようとしても、PTFEの材質上の問題から、クラックが生じるなどして実質的な使用に耐えられる回旋状等のライナーを形成できない旨をも主張する。しかし、PTFEの材質が他のプラスチックに比べて可塑性に劣るとしても、クラックが生じるか否かはコルゲート管の波形の大きさや押し出し助剤(添加有機溶剤)の調整にもよるものと解されるところであるから、そのことをもって乙第1号証刊行物記載の方法によってコルゲート管が製造できないと認める根拠とすることはできないし、他にもそのように認めるに足りる証拠はない。
さらに、原告は、本願発明のホース組立体は、車両の燃料を輸送するホースであるから、本願発明の「内側ライナー12」も単一径で滑らかな内壁を有している旨主張する。
しかし、本願発明の特許請求の範囲には、本願発明のホース組立体が車両の燃料を輸送するものに限られることを示す文言は一切ないうえ、逆に本願明細書には、前記第2の4(1)のとおり「本発明はホース構造に関する。特に、本発明は車両の燃料を運ぶようになった組立体に関する。」と記載されているから、主要な適用対象として考えられていたのは車両の燃料を輸送するものであるものの、それ以外のものも排除されないことが明示されているものというべきである。原告の主張は採用できない。
(3) 原告は、本訴において、本願発明の特許請求の範囲のものとしては「押し出された」との記載を唯一の根拠に、本願発明の「内側ライナー12」は「単一径の滑らかなもの」であると主張してやまない。しかし、本来、本願発明の構成を特定しようとする場合、「内側ライナー12」が「単一径で滑らかなもの」であるとして特許請求の範囲に直接そのように記載することに何らの困難も伴わないことは明らかである。原告は、このような状況の下で、そのようにしないで、「押し出された」との文言を採用したのであるから、「押し出された」との文言の用法が一義的に「内側ライナー12」が「単一径で滑らかなもの」であるとの結論を導き出すものではなく、他の結論の可能性を残すものである場合には、本願発明の特許性の有無の判断は、本願発明は、可能性の認められる他のものをも含有するものとしてなされるのが、特許制度の趣旨によく合致するものというべきである。
3 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告及び上告受理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 春日民雄 裁判官 山田知司)
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